| 6月10日(金) | 乾坤一擲 青葉区版398号
北海道で幼児がキノコ狩りで行方不明になった、そうじゃなくて言うことをきかないので、「しつけ」のため樹林帯の中に置いてきたら行方不明になった、そんなニュースが走った。5月28日、土曜日である。29日の朝から捜査が開始された。北海道函館の近くの七飯町だという。この季節、寒さは心配ない。どこか木の陰にもぐりこんでいてすぐ見つかるだろう、と思っていたら、捜査三日目になった。災害でよく言われる「72時間の壁」である。これは何か事件に巻き込まれたのか?車から降ろされた所に何処からやってきた車に連れ込まれた?新しい熊のフンが近くで発見されたらしい。やはり動物に襲われたか?行方不明にしなければならなかった複雑な家庭内の事情?それとも何か障害をかかえている少年ではないのか?さまざまな憶測が飛んだ。ところが六日目の6月3日の7時50分、発見されたというニュースが流れた。置き去りにされた山の中から直線で5`。自衛隊の演習場の中の兵舎である。これには家族は飛び上がったにちがいない。樹林帯のまわりを声をかけながら探していたおばあちゃんの喜ぶ顔が浮ぶ。このニュースは世界を駆け巡った。欧米ではやはりこの父親の、山中に置き去りにして「しつけ」を行った行為に厳しい批判が集まった。あとはこの「奇跡の生還」への驚きの声である。よく助かったもんだ、と大和くんの生命力に感動、である。29日、早朝からの捜索は樹林帯の中から始まった。大和くんは泣きじゃくったあと顔を上げて追いかけた道、方向が分からなくて、反対方向に駆けていったのだという。父親はキノコ狩りの最中でなく、クルマから道路に降ろしたのだから、半袖の少年が「藪」の中に突っ込んで行く訳がない。この初動捜査にはやはり疑問が残る。それにしても人間、七歳、エンジェルなんだな、と思う。まだ「人間になる前」、神から生を受けて地球上に現れきたばかり、無垢な、そのまんまの生物である。精神分析学者の岸田秀氏は、「人間は本能が壊れた動物である。本能に頼っては生き残れないので、本能の代わりに自我を作り、文化を持った。しかし、自我も文化も妄想にすぎない」という。七歳の大和くん、まだ本能が壊れていない動物だとすると、今回の「生還事件」、よくわかる。お父さんは今先端を行くit企業の課長さん。クルマというのはヒトが作り出した万能の移動機器。それが大自然の中に放り出された「まだ本能が壊れていない人間」に翻弄されてしまった。「本能が壊れた妄想いっぱいの人間」たちの思いもよらぬ結末になったのだ。大和くんが、まだ「本能が壊れていない人間」だったから、真夜中、自衛隊の兵舎にたどり着き、何も食べずに、6日間も永らえたのだ。
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